バイオプリンティング:

がんの新規治療法・治療薬の探索に革命を

今日の抗がん剤・治療薬開発における最大の課題の1つは、臨床試験中薬剤の85%が市場に到達できないことです。オンコロジー合成物の成功率が2017年の11.7%から2018年には8%に低下したように、臨床試験活動は依然としてリスクの高い取り組みです(Global Oncology Trends 2019, IQVIA)。

バイオプリンティングは、病気の理解や新しい治療法の検証のために、より生体に近いモデルを提供することで、がん研究への取り組み方に革命をもたらしています。この技術は、細胞を3次元環境に精密に配置することができるため、人体に存在する本来の微小環境に近い多細胞モデルを作製することが可能になりました。バイオプリンティングは、腫瘍の形成と進行に関する理解を深めるだけでなく、より効果的な創薬研究の開発にも役立っています。

このブログでは、多くの人に影響を及ぼす『がん』についての認識を高めるために、当社のお客様や科学者、あるいは『プリンティングのパイオニア』と呼ばれる研究者による主要な研究をご紹介します。バイオプリンティングを活用してがん研究を進め、この病気に対する新しい治療法の発見に貢献している研究者の姿をぜひご覧ください。

バイオプリンタの活用で進化する、脳腫瘍の薬剤スクリーニング

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ハイスループット薬剤スクリーニング、および個別化医療用の膠芽腫オンチップモデル作製

Joshua Chou博士の研究チーム(シドニー工科大学)は、生存率が非常に低い攻撃的な脳腫瘍である膠芽腫の解明に取り組んでいます。複雑な微小環境は血液脳関門によって自然に保護されているため、抗がん剤が関門を通過して拡散するのを制限しているという事実が、この課題をさらに深刻にしています。

現在、研究者が直面している2つの問題があります。一つは、ハイスループットな薬剤スクリーニングに利用できるバイオミメティックなin-vitroモデルが存在しないこと、そしてもう一つは、3次元腫瘍環境を効果的に提供し、血液脳関門によって生じる複雑さを捉えるモデルが存在しないことです。当社のバイオプリンティング技術を活用し、Chou博士のチームメンバーであるGiulia Silvani博士は、膠芽腫の微小環境と血液脳関門の重要な特徴をすべて備えたgbm-on-a-chipモデルを開発しました。BIO Xの活用により、ハイスループットな薬剤スクリーニングのワークフローに統合できる、より現実的な膠芽腫モデルの開発に成功したのです。

「我々のgbm-on-a-chipモデルにより、研究者は、薬物が血液脳関門を通過して拡散する様子をより深く理解できるようになります。また、脳腫瘍をターゲットとした治療用濃度を達成するために、薬剤の処方を最適化し、改良するのに役立つと考えられます。さらに、このモデルは、将来的に脳腫瘍患者を対象とした個別化薬剤スクリーニングのためのプラットフォームとなります。患者固有の脳腫瘍細胞を培養し、モデル内で再現して薬剤スクリーニングを行い、どの薬剤がその人の脳腫瘍治療に効果的かを判断することができます。」

– シドニー工科大学(University of Technology Sydney) Joshua Chou博士

乳がん治療に変革を

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個別化医療検査のための患者特異的な腫瘍モデル

Carcinotech社の3Dプリントによる微小腫瘍は、非臨床試験や個別化医療試験において、迅速かつ倫理的で、正確な薬物スクリーニングを可能にするプラットフォームです。患者由来の生検、初代細胞、免疫細胞、がん幹細胞を用いて、腫瘍微小環境と患者の免疫細胞を再現する乳がんの微小腫瘍をバイオ3Dプリンタで作製しました。

Carcinotech社は、乳がん、肺がん、脳腫瘍、大腸がんなど、6種類の『がん』に対応する技術を開発し、拡大してきました。バイオ3Dプリンタを用いて、1人の患者の生検から数百の乳がん微小腫瘍を作製しています。これにより、複数の薬剤を同時にテストすることができます。自動化とバイオプリンティングを組み合わせることで、同社は、外科医や腫瘍医に治療薬テストを実施させることで、個々の患者に合わせた治療計画を作成する機会を提供し、がんの効果的な治療法の開発を加速しています。

「当社の生きた腫瘍は、乳がんとの闘いを助ける新薬や治療法の研究を進め、この病気に苦しむ人々の生活の質と生存の可能性を向上させるために利用することができます。将来的にはこのモデルにより、すべての人が個別のがん治療を受けられるようになり、より効果的な治療や生存の可能性の向上につながることを願っています。」

– Carcinotech社 CEO Ishani Malhotra氏

バイオプリンタにより加速する大腸がん研究

大腸がんの3Dバイオプリントモデル(H-E染色による生死判定)

非臨床試験や臨床試験の段階で利用できる予測モデルが不十分であることが大きく影響し、最終的に実用化まで到達できる医薬品は全体の0.1%に過ぎません。したがって、新規治療薬の開発の成功には、より生体内のがん腫(上皮生悪性腫瘍)に近く、予測性の高い、個別化医療の機会を提供できる、効果的な非臨床評価用疾患モデルの導入が重要です。

プロブディフ医科大学(ブルガリア)のSbirkov博士の研究チームは、再現性が高く、安価で柔軟な大腸がんモデルを開発しました。バイオプリンタによって、生体内の腫瘍微小環境と細胞の生物学を再現するために必要な空間構成と細胞外構成要素を提供する3D構造体に細胞を配置することができました。

「体内の細胞で起こることをより正確に再現できるin vitroのモデルがあれば、より生理学的に適切な非臨床データが得られ、薬物反応に関しても高い予測力が得られるので、最終的には創薬や個別化医療の向上につながります。」

– プロブディフ医科大学(Medical University-Plovdiv)Yordan Sbirkov博士

肺がんの秘密を解き明かす

世界のがん関連死の主要な原因の一つは、肺がんです。オルガノイドやスフェロイドを含む従来の3Dモデルには、残念ながら大きな限界があります。生体に近い微小環境を再現できないと、ECMからなる基質内での細胞間コミュニケーションや移動パターンを捉えることが難しくなるため、ネイティブな腫瘍微小環境の確立は、疾患の進行を理解し、強固に創薬研究を展開する上で極めて重要です。この課題を解決するために、当社の研究チームは、多細胞肺がんアセンブロイドモデルを作製しました。

この研究では、ラミニンとコラーゲンが豊富な間質環境に、ヒト肺がん細胞(A549)、肺腺がん関連線維芽細胞、ヒト臍帯静脈内皮細胞を組み込みました。その結果、細胞外マトリックス(ECM)内でのがん細胞の移動とがんスフェロイドの合体を可視化することができました。

3Dバイオプリンティング技術の導入により、多細胞の構築物を正確に幾何学的に配置することができ、本来の人体の3次元的生体環境をよりよく再現することができるなど、複数の利点があります。細胞は周囲の細胞や環境からのシグナルに基づいて自己組織化するため、この重要な現象は、腫瘍形成の理解を助けるとともに、薬剤の開発及びスクリーニング促進への期待が高まります。

BIO X™

数々の賞を受賞したデザインは、研究者やイノベーターにとって信頼できるバイオプリンタです。

BIO X6™

こちらも複数のデザイン賞を受賞しており、6本のプリントヘッドを搭載し、比類ないバイオプリンティングの柔軟性を実現しています。

BIONOVA X

高い分解能・ ハイスループットの3Dバイオプリントを実現する光造形式(DLP)バイオプリンタです。