3Dバイオプリンティング – 押出式と光造形式(DLP)の比較解説

硬い骨から柔らかい脂肪まで、そして極小の毛細血管から脳全体まで、無数の組織タイプを形成する私たちの細胞の能力は、組織工学の最も魅力的でありながら困難な側面でもあります。人体の複雑さを再現するために、組織工学研究者は、現在の単一ソリューションではなく、さまざまな3Dバイオプリンティング 技術を利用する必要があります。

このブログでは、CELLINKが提供する2つの3Dバイオプリンティングソリューション(押出式バイオプリンタ「BIO X™」「INKREDIBLE™」、と光造形式バイオプリンタ「Lumen X™(Volumetric社製)」)の長所と短所について説明します。それぞれの機構、分解能、形状、そして装置で使用できるマテリアルについて比較していきます。

プリントの仕組み

どちらのバイオプリンティング技術も、まずCAD(コンピュータ支援設計ツール)ファイルを水平方向にスライスし、それをプリンタで積層して3D構造物を作製することから始まります。違いは、それぞれの方式がレイヤーを処理する方法にあります。

より一般的な手法である押出式のバイオプリンティングでは、ガントリー(ロボットアーム)に取り付けられたカートリッジにペースト状あるいは液状のマテリアルを充填し、プリントベッド(表面)の上を直交座標系に沿って移動させ、オブジェクトをプリントします。機械的な力、通常は空気圧やモーター駆動のピストンによって、ノズルからマテリアルを押し出し、フィラメントを形成します。フィラメントをドラッグすることで、ガントリーは最初の層の輪郭をなぞります。次に、ユーザーが指定したように、ガントリーは、プリンティングが完了するまで、フィラメントを層ごとにインフィルパターンで堆積し続けて、多孔性と機械的強度を確立します。

デジタル光処理式のステレオリソグラフィー(DLP方式SLA)もレイヤーごとのプロセスですが、ノズルからマテリアルを押し出すのではなく、映画のプロジェクターのような照明源で各レイヤーを静止画像で処理します。この画像を感光性液体のバスまたは液滴に投影すると、化学反応が発生し、光が当たったところだけ液体が固まる、つまり硬化します。この硬化した層をビルドプラットフォームの上で重ねると、オブジェクトがプリントされます。

分解能

プリント技術について議論する際によく比較されるのが、分解能、つまり理論上プリンティング可能な最小のディテールですが、これはマテリアルや形状など、この記事の範囲外の多くの要因によって変わります。今回は、X軸とY軸の平面分解能を中心に比較を行っています。押出方式のバイオプリンティングでは、ノズルの直径が押し出し可能なフィラメントの直径となります。光造形方式では、投影されるピクセルのサイズによって、硬化できる光の最小点が定義されます。この光点は、一般的な押出ノズルの直径よりも小さく、化学反応が安定しているため、光造形式のプリント技術では、押し出しバイオプリントよりも高い分解能で、より小さく複雑な造形が可能になります。バイオプリンタのノズルから押し出されたフィラメントは、重力と摩擦のほかに、寝かせ方、広げ方を制御するものがないため、フィラメントの境界でばらつきが生じます。光造形式のプロジェクターの最小の光点と同じ大きさのフィラメントを使っても、このばらつきによって、押し出しプリントはSLAプリントよりも粗く見えてしまうのです。

マイクロ流路への応用

押し出しプリントは、基本的に丸太小屋のように円柱を積み重ねたものなので、フィラメント同士の接触面積は非常に小さいです。この積層された円筒自体が血管のように管状に配置されている場合、接触面積が小さいため、管の中を流れる液体の圧力に耐える水密性や強度を確保することが困難です。一方、光造形方式では、プリント物を端から端まで接着して積層していくため、強度が高く、耐水性のある構造を実現することができます。特に、複雑なネットワークを持つデバイスや、顕微鏡下で歪みのない画像化が必要なデバイスなど、lab-on-a-chip(ラボオンチップ)のマイクロ流体デバイスのバイオプリントには、より強固なチューブと滑らかな側面を持つ光造形方式が適しています。光造形方式は、ネットワークのような複雑なネガ形状のプリントに有利であることから、格子のような複雑なポジ形状のプリントにも適しています。

気孔率の制御

組織工学用スキャフォールドは、細胞を生存させるために、あらゆる次元で特定の多孔性と形状の両方を必要としますが、押出式バイオプリンタは、塗りつぶしライン間のネガティブスペースのみで多孔性を作製します。図1に示すように、押出式プリンタを使用して立方体をプリンティングする場合、ユーザーは六角形のインフィルを何パーセントか選択すると、機械は立方体の中に縦に並んだ六角形をプリンティングします。

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図1:押出式による立方体の3Dプリンティング. A) 立方体のCADモデル、B) 周囲(黄色)とインフィル(赤色)のパスを示すスライスの画像、 C) 押し出された立方体。

押出式のスライサーはオブジェクトの外周に焦点を当てますが、光造形式のスライサーはレイヤーの平面全体を1つの画像に取り込み、100%のインフィルで動作するため、必要な空隙は元のモデルで作製する必要があります。しかし、多くのCADソフトは、図2の立方体のようなオブジェクトに格子パターンを適用することができます。

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図2:光造形式による立方体の3Dプリンティング A) ジャイロイド構造の立方体のCADモデル、B) 感光性マテリアルに投影されるスライスの画像、C) プリントされたジャイロイド立方体(右)。

骨のような組織は、3次元的に空隙や形状を持つため、繰り返しの格子やランダムな3次元構造をプリントすることができれば、より生体を模倣した足場材を得ることができるでしょう。フィラメントごとに押し出す方法は、もともと脆弱であるため、図2のような格子のプリンティングはほぼ不可能です。さらに、押出式による造形物では、空隙は垂直方向に存在しますが、水平方向の空隙は層間に発生するため、限定的あるいは存在しません。各技術の強みが異なるため、ユーザーは自分のデザインに最適なバイオプリンティングの手法を検討する必要があります。押出式は、デザインとプリントの工程が簡略化されているため、CADソフトウェアへのアクセスが制限されているラボや、始めたばかりのラボに適していますが、人体のような極小で複雑な構造を再現するには、光造形バイオプリント技術が現在最適な選択肢となります。ただし、形状や大きさは組織工学のパズルの一部にすぎません。

マテリアルの選び方

確かに、臓器が一つのマテリアルと一つの細胞で構成されていれば、バイオプリンティングははるかに簡単ですが、臓器を適切に再現するには、異なる細胞種の空間的配置を把握することが必要です。押出式プリンタは、任意の数のカートリッジを配列することができ、フィラメントごとにマテリアルや細胞を配置できるため、生体内環境を正確に模倣することが可能です。これに対し、光造形式のバスは、通常1つのマテリアルと1つの細胞種です。これまでにも、マテリアルの配列や細胞の種類を問わないマルチマテリアルSLAプリントの試みは複数ありましたが、こうした試みは通常、時間をかけて洗浄工程を繰り返し、洗浄液やマテリアル間のクロスコンタミネーションを引き起こすリスクを伴います。押出式により、さまざまなマテリアルでのプリンティングが可能になるだけでなく、複数のマテリアルによるバイオプリンティングを可能にします。

流体をカートリッジを通して押し出すというシンプルな方法なので、押出の前後でマテリアルを液化して固化するなど、組織工学研究者の創造性と柔軟性を高めてくれます。押出用マテリアルのほぼ無限の可能性は、BIO Xで利用できるさまざまなプリントヘッドに表れており、研究者が1つのプリントで多くのマテリアルと細胞種を組み合わせることができるようにします。Lumen Xに搭載されたDLP方式SLAのような光造形バイオプリンティング技術は、その名の通り、感光性マテリアルと光源を用いて固化を促進させるものです。また、感光性マテリアルは、プリント中にビルドプラットフォームが液体に出入りすることで液滴状に流動するため、十分に低い粘度を持たなければなりません。

機構、分解能、形状、そしてマテリアル選択の観点から見ると、押出式バイオプリンタと光造形式バイオプリンタの間には多くの違いがありますが、それぞれの利点から多くの研究環境において完全に補完し合うものとなっています。押出式は、バイオインクの広大なパレットからのマルチマテリアルプリントと簡素化されたモデルデザインを提供し、光造形式は、高い分解能で驚くべき幾何学的複雑性を実現し、使用するマテリアルによっては完全な透明度を実現します。また、この2つの技術を組み合わせて、1つの実験を行うことも考えられます。例えば、Lumen Xでプリントしたマイクロ流体チップに、細胞の混合物をBIO Xから押し出すなど、CELLINKは信頼性が高く、汎用性の高いバイオプリンティングソリューションを提供しています。