4Dバイオプリンティングで患者の治療に変革を
ブレイクスルーまでの道のり
Kaushik Chatterjee博士は、インド理科大学院バンガロール校の教授で、材料工学と生体医工学をご専門としています。ペンシルベニア州立大学(アメリカ)でバイオエンジニアリングの博士号を取得した教授は、生体材料、組織工学、3Dプリンタをテーマに現在研究をされています。若手科学者賞やRamanjuan Fellowship(ラマヌジャン・フェローシップ:優秀な科学者・技術者を対象としたインドの制度)などの賞を受賞されており、博士の研究は再生医療に革命を起こすことを目指しています。
組織工学の視野を3Dからさらに広げて
4Dバイオプリンティングを始めたきっかけについて尋ねると、これまでにChatterjee教授が材料工学で培った経験と3Dプリンティング技術の革新が影響している、とお答えになりました。特に、バイオプリンティングの進歩が、以前には実現不可能だった製品やデバイスを生み出す可能性を開いた、とおっしゃいます。
4Dバイオプリンティングにより、ダイナミック(動的)な構造を生成する能力が生まれ、複雑な組織開発や個別化された医療機器への道が拓かれる未来を、教授は思い描いています。イノベーションへの深い情熱と、人々の健康を増進させたいという願望を原動力に、医療技術分野に大きく貢献することに専心して取り組んでおられます。

3Dから4Dバイオプリンティングへの挑戦
最適化、トランスレーショナルリサーチ、臨床的関連性
3Dバイオプリンティングを研究に取り入れ、さらに4Dバイオプリンティングへ移行するには、大きな課題が発生します。それは、いくつもの変数の最適化が必要である、ということです。これには、マテリアル(材料)、プリントパラメーター、細胞選択などが含まれます。さらに、臨床医や患者のニーズを含め、臨床応用との関連性を考慮することも重要です。これを達成するにはトランスレーショナル・リサーチが必要ですが、規制プロセスも確立されていない新たな分野では、課題が多い現状です。
とはいえ、再生医療におけるバイオプリンティングの可能性を引き出すには、こうした課題を克服することが不可欠となります。4Dバイオプリンティングの大きな可能性を追求し、その進歩を加速させるためには、適切な技術と専門知識を持つ産業界のパートナーを見つけることが重要である、とChatterjee教授が強調するのは、こうした理由があるからです。
バイオプリンティングの可能性を探って
「2020年の初めにBIO Xを導入し、3Dバイオプリンティングの道に足を踏み入れました」
- Kaushik Chatterjee 教授
2020年の『BIO X』導入により、Chatterjee教授の3Dバイオプリンティングによる旅が始まりました。初めは3Dスキャフォールド(足場材)のプリンティングから、同年末には光造形式のバイオプリンタ『LUMEN X』を導入し、研究能力を拡大しました。この2種類のプリンタを組み合わせることで、手術や治癒に有益な構造を作製するための4Dバイオプリンティング技術の探求が可能になった、とおっしゃいます。
『BIO X』の特徴である3つの異なるプリントヘッドが教授の目に留まりました。これによりマルチマテリアルプリント(マテリアルを複数使い分けてプリント)が可能になりますが、他のバイオプリンタにはあまり見られない特徴でした。また、プリントベッド(造形ステージ)の温度を最適化することで材料特性を変更できる可能性や、熱可塑性プリントヘッドによりプラスチックや4Dプリントをサポートできる点がハイドロゲルやプラスチックを含む様々なマテリアルの研究を促進できることも特長として挙げています。
さらに『LUMEN X』についても、樹脂用プリントに使われる他の光造形式プリンタとの違いを挙げています。教授は、CELLINKのプリンタは、生きた細胞のカプセル化と光硬化に不可欠な細胞に優しい光源を搭載している点が評価でき、市場で唯一の真のDLPバイオプリンタである、と説明します。これにより、既存の3Dプリンタを生細胞プリント用に改造する必要がなくなり、貴重な研究時間を節約することができた、とのことです。
『BIO X』と『LUMEN X』を使った教授の研究は、Advanced Healthcare Materials誌に掲載され、プログラム可能な形状変形ハイドロゲルや可視光ベースの4Dバイオプリンティング組織スキャフォールドに関する内容が紹介されています。
「質の高い医療が受けられる人は、特にインドのような人口の多い国や遠隔地では限られています。3Dおよび4Dバイオプリンティングは、そのような人々の臨床ニーズを満たす希望と機会を提供する可能性を秘めています。」
- Kaushik Chatterjee 教授

研究と医薬品開発の橋渡しとして
Chatterjee 教授のバイオプリンティングにおける歩みは、再生医療と組織工学の境界を押し広げ、この革新的な技術を活用することで、この両分野の研究を進歩させることへの責任感と使命感を表しています。教授は多様な背景を持つ人々が技術を活用し、向上させる機会が豊富にあることを強調しています。現在、業界関係者は4Dバイオプリンティングの可能性に深い関心を寄せています。なぜなら、従来の従来の動物モデルシステムは、医薬品の有効性と安全性を正確に予測するには不十分なことが多いからです。そのため業界では、4Dバイオプリンティングが最も有望な技術の一つとして認識されています。ダイナミックな構造を生成するその能力は、医薬品開発の理解と進歩に新たな次元を提供し、この分野に革命をもたらし、より安全で効果的な治療への道を開くことが期待されています。
さらにChatterjee教授は、研究と実際の医薬品開発との間の溝を埋めるために大きな一歩を踏み出しています。教授の次なるステップは、『BIONOVA X』のハイスループット機能を活用して、様々な材料への光照射の影響を研究し、材料特性の効率的な探索を可能にすることです。病院とも連携し、臨床現場で3Dバイオプリンティングを実施するために必要な手順を指導することを目指しており、ヒトへの応用が期待される『GMPグレードのバイオインク 』(CELLINK製)の活用に重点を置いています。治験(ヒト試験)への道を開くため、最適な結果を特定するためのラボでの実験が綿密に計画されています。教授の画期的な研究の詳細については、ChemRxivに掲載されている4Dプリント磁気複合材料に関するプレプリント論文をご参照ください。
またChatterjee教授は、インド理科大学院(Indian Institute of Science)内に研究拠点(Centre of Excellence(CoE):センターオブエクセレンス)を設立し、3Dバイオプリンティングの認知度の向上や、バイオ製薬企業を招待しこの革新的な技術を目の当たりにすることで、受け入れてもらおうと尽力しています。知識を広めることを使命とする教授の活動は、地域社会との関わりを促進し、バイオプリンティングを広めるための公開イベントなども企画しています。
研究分野の垣根を超えた協力関係を
当社は、バイオプリンティングを活用した皆様の研究のお手伝いをしています。4Dバイオプリンティング技術の力を解き放ち、私たちと一緒に患者ケアに変化をもたらしましょう!