未来を拓く学びの場:

小山高専のアントレプレナーシップ教育とバイオ3Dプリンタの融合

経済や社会の急速な変化に伴い、社会から求められる技術者は日々変化しています。産業の高度化に対応できる人材や、海外でも活躍できるグローバル技術者が求められるようになる中、日本では政府の支援もあり、アントレプレナーシップ教育(通称:アントレ教育)推進の動きが、大学を始めとする教育機関で広まってきました。

今回ご紹介する小山工業高等専門学校(以下、小山高専では、このアントレ教育の一環として当社のバイオ3Dプリンタを導入いただき、高等専門学校※では初めての導入事例となりますが、その背景や構想についてお話を伺いました。

※高等専門学校(通称:高専)は、日本独自の高等教育機関であり、中学校卒業段階の若い年齢時から、幅広い基礎知識と実践的な技術を修得できるよう、実験や実習を重視した教育が行われている

小山高専とアントレ教育について

小山高専は、『実践的・創造的技術者の養成』を目的とした教育方針により、これまでに数多くの優秀な人材を輩出してきました。本科4学科※と、より高度の専門知識と技術を扱う複合工学専攻の専攻科から構成され、『技術者である前に人間であれ』の教育理念の下、学生と教師の人間的な接触に重きを置いた特色ある教育を5年間一貫して行っています。ロボットコンテストやプログラミングコンテストといった様々なコンテストでの受賞歴もあり、高い就職率・進学率を誇っています。

※機械工学科、電気電子創造工学科、物質工学科、建築学科

これまでにもアントレプレナーシップにつながるような教育は行われていましたが、小山高専が目指しているアントレ教育では必ずしも起業をさせたいという方針ではなく、アントレ教育を通して、学生が情熱を持ってやりたいことや将来の目標や夢を見つけるための教育を目指しています。例えば、『目標が決まれば、それを実現できる企業や環境への選択もできるし、やりたいことがあってもそれを実現できる場がなければ、起業などの選択も生まれてくる』といったように、幅広いキャリアへの選択とチャレンジができるような教育環境を目指しています。

「『(学生の)やりたい!を見つける』ことと、『どういうものが社会から求められているのか』の両方を教育することによって、学生の就職、進学、起業を含めたチャレンジをサポートしていきたいと考えています。(飯島先生)」

机上の議論だけではなく、実際に作ってみよう

飯島 洋祐 准教授(電気電子創造工学科)
川越 大輔 准教授(物質工学科)
高屋 朋彰 准教授(物質工学科)

あらゆる情報をインターネットなどで簡単に手に入れることができるようになりましたが、ネットで検索した情報を元に想像したことと、自分の経験から得た情報は、違う発見があります。「学生誰もが実際に物を作ることができる環境を用意することで、『本当にできるのか』や『それがやりたいことなのか』などを実際のモノづくりを通して体験しながら、学生には自分自身をよくする事とやりたいことや夢を見つけてもらいたい」と、飯島先生は語ります。

実際にモノを作り、それに対して評価や具体的な次のアクションを考える、という3Dプリンタの強みを活かし、これまで積極的に導入してきた小山高専ですが、バイオ3Dプリンタに関しては、全く懸念がなかったわけではありませんでした。特に小山高専の場合、目的の研究のための装置というよりは、研究分野や領域を問わず、アントレとして多くの学生が使うことが想定されているため、誰でも簡単に使える必要がありました。

「バイオプリンタは細胞も扱えるので、他の3Dプリンタ製品と比べて構造が複雑なのでは、という不安がありましたが、複雑な設定や精密な操作が不要で、想像以上に操作がシンプルだったので、これなら学生でも簡単に使えそうだと思いました。(川越先生)」

また、定期的なセミナー開催や海外での事例の多さ、日本語によるサポート体制が、困った時でもすぐに相談できるという安心感となり、懸念の解決に繋がった、と川越先生は振り返ります。

「技術者として成長してもらいたい」との思いから

小山高専ではグループワークも多く、これまで紙やPC上でアイデアベースの議論が中心でしたが、家庭用3Dプリンタと同様に、生物関係の研究にはバイオ3Dプリンタが日常的に使われるようになることで、創造的で独自性のあるプロジェクトに取り組む機会が増えるのでは、と期待を膨らませています。

また、教育ツールとしてだけでなく、学科を超えた学生同士の交流や外部機関とのコラボレーションにつながるツールとしても期待されています。考えたアイデアを3Dプリントすることで、より深い議論が展開されたり、実物を使って企業にアピールに行くといったことも可能になります。言葉や資料だけでは表現できなかったものが、3Dの活用で表現できるだけでなく、さらにその先の課題発見につながるなど、さまざまな効果が期待されます。

「バイオマテリアルの専門家として技術的なアドバイスはしますが、学生には自由な発想を出してもらいたいので、必要以上の指導はしません。ラボにある他の3Dプリンタとも組み合わせて、気軽に使って欲しいと思います。(川越先生)」

「従来のデバイスの使用用途にとらわれず、学生達の新鮮な発想で新しい使い方が生まれれば、と思います。他の装置やフードプリンタなどとも組み合わせて、学生なりの奇抜なアイデアを具現化し、より多くのチャレンジのために使って欲しいと思います。(飯島先生)」

小山高専のINKREDIBLE+と川越 先生

教師が「これを使ってやってみよう!」と言えば、使い方がインプットされてしまうので、あえて教えすぎず、学生が自分のアイデアで使えるように促すのが小山高専の方針とのことです。「技術者として成長して欲しい」という強い願いが込められているのを感じます。未来を担う技術者を目指す、小山高専研究者の皆様のご活躍が楽しみですね。

バイオプリンティングに関する疑問や活用分野については、お気軽にご相談ください。