これまで細胞が到達できなかったところへも、果敢に挑戦

シドニー工科大学(UTS)の上級講師であるJoshua Chou博士は、新型コロナのパンデミックによる制限にもかかわらず、BIO X でバイオプリントしたがん腫瘍を国際宇宙ステーション(ISS)に送り、がんのメカノバイオロジーを研究することに取り組んでいます。バイオメディカル工学部のChou博士のラボでは、がん細胞が微小重力にさらされると24時間以内に死滅することをすでに発見しています。しかし、がん患者を治療のために宇宙に送る計画がないことを、素早く指摘しています。「このGBM-on-a-chip(チップ上の膠芽腫)を宇宙環境にさらすことで、がんの細胞プロセスの異なる側面を観察し、利用したいと考えています」と、2020年のオーストラリア最優秀宇宙研究者は説明しています。

シドニー工科大学のJoshua Chou博士は、BIO Xでバイオプリントしたがん腫瘍をISSに送ろうとしています。

がんのメカノバイオロジーを始めたきっかけは?

ケンブリッジと東京でのポスドクでは、骨の力学的生物学と、同じく力学的感受性の高い疾患である骨粗鬆症の研究に取り組み、シグナル伝達経路およびそれらが細胞を操作するのをブロックする方法を特定し、より優れた治療薬を開発する方法を研究しました。シドニーで医用工学の研究室を立ち上げたとき、私はがんのメカノバイオロジーをより深く研究することを選びました。数年後、私はがん腫瘍をISSに送ることになりました。

打ち上げ予定の腫瘍モデルの作製に、BIO Xをどのように活用していますか?

膠芽腫(GBM)微小環境を模倣するために、GBM-on-a-chipを開発しました。当初、コラーゲンゲルに手作業で細胞を混ぜるのは手間がかかるだけでなく、実験ごとの再現性も保証できませんでした。CELLINKが最初に市場に出たとき、これは素晴らしいと思って、私のラボ用にBIO Xを購入したことを覚えています。そして、それは本当に満足感が得られる経験でした。BIO XによるGBM-on-a-chipの自動バイオプリンティングは、より効率的で生理的環境を表すのと同時に、より再現性の高いものとなっています。膠芽腫腫瘍オルガノイドは、成熟した血管系に囲まれた中央の空洞に3Dプリントされ、これは血管と膠芽腫の間の相互作用を模倣します。どの抗がん剤が血管チャネルを通過するか、血管新生が膠芽腫とどのように相互作用するかなどをテストできます。 膠芽腫のスフェロイドを効率的に作製することが重要でしたが、BIO Xのインターフェースは非常にわかりやすいので、ワークフローの最適化には時間をかけずに済みました。

パンデミックの影響で打ち上げが遅れているようですね。その間、微小重力の効果をどのように検証してきたのですか?

微小重力をシミュレーションするデバイスはX軸およびY軸を中心にして回転して、Z軸を打ち消すか、打ち消しに近い状態にして、ラボで10-3Gの無重力環境を再現します。これにより、細胞を「打ち上げて」、実際の宇宙に入らずに細胞がどのように応答するかを確認します。

GBM-on-a-chipは微小重力でどのように反応しましたか?

微小重力は、がんがどのように振る舞うかを読み解くための代替技術です。研究を始めた当初は、あるがんから別のがんまで保存される基本的な機能メカニズムがあるのかどうかを調べることでした。この地球上には、微小重力環境にいたことを遺伝子レベルで記憶しているものはありませんから、衝撃的な反応があることは予想されました。ただし、シミュレーションした微小重力では、調べた6つのがん細胞すべてから、機械的な除荷作用、または非常に小さい力に対する攻撃的な反応が見られました。多くの受容体や経路のスイッチがオフになる、あるいは過敏になり、細胞は24時間以内に死んでしまったのです。

つまり、がん患者を宇宙に連れて行って治療するということでしょうか?

という質問が一番多いですね!でも、そうではありません。患者を宇宙に送るのではなく、宇宙という環境を利用して、がんをより深く理解しようというのです。ポスドク時代には、骨粗鬆症の治療薬について研究していました。この薬物は、機械的活性がないはずの細胞を、機械的活性があると思い込ませてしまうのです。がんについても同様に、感覚環境を感知する受容体やバイオマーカーを特定し、それを遮断することで、がん細胞を地球にいながら宇宙にいるように錯覚させたいと考えています。今回の打ち上げでは、他にもいろいろな要素が絡んでくるので、さらに予想外のことが学べると思います。例えば、ある細胞は微小重力の影響は受けないものの、放射線には反応することが分かっています。いずれにせよ、私たちはがん細胞を混乱させ、現在利用可能な治療法の効率を高めることに重点を置いています。

GBM-on-a-chipのロケットによる打ち上げ実現までの課題は何でしょうか?

ISSに搭載される生物実験装置では、細胞を休眠させることが大きな問題の一つです。細胞は、打ち上げの少なくとも2日前には発送されます。その後、打ち上げからISSに到着するまでに約3~4日かかります。細胞が増殖するにつれて、モジュールはかなり混雑します。細胞毒性保存法を必要としない、室温で休止状態の輸送を可能にする、細胞をカプセル化するAtelerixアルギン酸塩クッションゲルについて、CELLINKの科学者に相談しています。

CELLINKとのパートナーシップは、あなたの研究にどのような影響を与えましたか?

BIO Xは使いやすいプラグアンドプレイのデバイスですが、真の価値はCELLINKチームのサポートと専門知識です。私たちは、どのゲルが私たちの用途に適しているのかを理解する必要がありました。そして、バイオインクのポートフォリオに関するチームの深い知識は非常に貴重でした。過去4年間、CELLINKチームとは良好な関係を保っており、トラブルシューティングに困ったときは、学生も私も安心して連絡を取ることができます。事実、CELLINKとは提携、および微小重力下で異なるバイオインクをテストすることの検討について、話し合ってきました。この研究はそれ自体が興味深いものであり、宇宙研究を検討している他のバイオエンジニアに付加価値をもたらすことを期待しています。

あなたの研究は未来の健康にどのような影響を与えると思いますか?

私たちの宇宙での研究が、地球の医療に貢献できることは特に素晴らしいことだと思っています。人類の歴史の中で、環境は変化しても、重力は不変でした。臓器や組織のモデルを宇宙へ送ることは、またとないチャンスです。この新しい環境に細胞をさらすことで、私たちは細胞プロセスのさまざまな側面を学び、それをどのように活用するかを学ぶでしょう。

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